2026年11月8日日曜日

【萬葉集06 0959】

06 0959 豊前守宇努首男人歌一首[豊前守宇努首男人(うぬのおびとのおひと)の歌一首]
 06 0959 徃還(ゆきがへり)常尓我見之(つねにわがみし)香椎滷(かしひがた)従明日後尓波(あすゆのちには)見縁母奈思(みむよしもなし) 

 ゆき-かへ・る 【行き返る】:往復する。 つね 【常・恒】:ふだん。平常。 
『滷』の字には少なくとも、滷(ロ)・ 滷(テキ)・ 滷(セキ)・ 滷(ジャク)・ 滷(シャク)・ 滷(にがり) 滷い(しおからい)の7種の読み方が存在する。
 『潟』の字には少なくとも、潟(テキ)・ 潟(セキ)・ 潟(ジャク)・ 潟(シャク)・ 潟(サク)・ 潟(かた)の6種の読み方が存在する。
 滷(セキ)→潟(セキ) 
【故地名】香椎潟(かしいがた):福岡県福岡市東区(香椎の地の西方の海辺)だが当時の訓は(せき) 
つまり三句目(かしひがた)は、(かしひせき)

 従:[音]ジュ(呉)ショウ(漢)ジュウ(慣)[訓]したが-う、したが-える (表内)より、よ-る、ひろい、ひろき(古訓)したがふ、より、ゆるす、をふ、ほしいまま、そひく、うつす、よる、きたる、つかふ、このむともなし、とも (類聚名義抄)うつす、をふ、つひに、ゆるす、したがふ、つかふ、きたる、ほしまま、あひひく、かさなる、ことむなし、ゆ (字鏡集) 
従ㇾ明日→明日従(あすゆ) 
「ゆ」:〔起点〕…から。…以来。 

 『縁』の字には少なくとも、縁(タン)・ 縁(エン)・ 縁(よすが)・ 縁る(よる)・ 縁(ゆかり)・ 縁(へり)・ 縁(ふち)・ 縁(えにし)の8種の読み方が存在する。
 よし‐なし【由無し】:理由のないさま。 
今風に言えば、(みるよしもなし)
 養老4年(720年)大隅・日向で隼人が一斉蜂起した際、豊前守(現在の福岡県東部及び大分県の北西部に属する)であった男人は鎮圧のために将軍に任ぜられて、隼人の軍勢を大いに破って数多くの兵を討ち取った。
 神亀5年(728年)に、九州から帰京する時に太宰府の官吏らと詠んだ歌だという。
 しかしこの年は、大伴旅人が太宰府に赴任した年でもある。

 ゆきがへり つねにわがみし かしひせき あすゆのちには みるよしもなし

2026年11月1日日曜日

【萬葉集06 0958】

06 0958 大貳小野老朝臣歌一首 
06 0958 時風(ときつかぜ)應吹成奴(ふくべくなりぬ)香椎滷(かしひがた)潮干汭尓(しほひのうらに)玉藻苅而名(たまもかりてな)

 とき-つ-かぜ 【時つ風】:その季節や時季にふさわしい風。順風。
べし:推量・予想の意を表す。…だろう。…しそうだ。 
「いつものように、潮の風が吹いてくる」というんだけどね。

『滷』の字には少なくとも、滷(ロ)・ 滷(テキ)・ 滷(セキ)・ 滷(ジャク)・ 滷(シャク)・ 滷(にがり)・ 滷い(しおからい)の7種の読み方が存在する。
 『潟』の字には少なくとも、潟(テキ)・ 潟(セキ)・ 潟(ジャク・ 潟(シャク)・ 潟(サク)・ 潟(かた)の6種の読み方が存在する 
滷(セキ)→ 潟(セキ)→ 潟(かた)
【故地名】香椎潟(かしいがた):福岡県福岡市東区(香椎の地の西方の海辺) 

 しほ-ひ 【潮干】:潮が引くこと。引き潮。また、潮の引いた海岸。
 うら 【浦】:入り江。海・湖・池などの湾曲して陸地に入り込んだ所。 
 な:〔詠嘆〕…なあ。…のだなあ。 
♪潮風を待つ少女♪は、潮が引くのを待っているというわけだ。

 ときつかぜ ふくべくなりぬ かしひがた しほひのうらに たまもかりてな

2026年10月25日日曜日

【萬葉集06 0957】

06 0957 冬十一月大宰官人等奉拜香椎廟訖退歸之時馬駐于香椎浦各述懐作歌 帥大伴卿歌一首[冬十一月、大宰の官人等の香椎の廟を拝み奉り訖へて退り帰りし時に、馬を香椎の浦に駐てて各懐を述べて作れる歌帥大伴卿の歌一首] 
06 0957 去来兒等(いざこども)香椎乃滷尓(かしひのかたに)白妙之(しろたへの)袖左倍所沾而(そでさへぬれて)朝菜採手六(あさなつみてむ)

【 去り來・去來】:やって来る。さりくの漢字表記。 
『兒』の字には少なくとも、兒(ニ)・ 兒(ジ)・ 兒(ゲイ)・ 兒(こ)の4種の読み方が存在する。 
『等』の字には少なくとも、等(トウ)・ 等(タイ)・ 等(ら)・ 等しい(ひとしい)・ 等(など)の5種の読み方が存在する。
 こ‐ら【子▽等/▽児▽等】:上代、人を親しんでよぶ語。多く単数の女性に対して用いるが、複数のことも、男性の場合もある。
 一句目(いざこども)は、(さりくこら) 

 【故地名】香椎の潟(かしいのかた):【現在地名】福岡県福岡市東区 
しろ-たへ 【白栲・白妙】:こうぞ類の樹皮からとった繊維(=栲)で織った、白い布。また、それで作った衣服。
 海に白妙の衣なんて、まさにその情景が目に浮かぶよね。

 そで 【袖】:衣服の腕を覆う部分。袂(たもと)を含めていうこともある。
 あさ‐な【朝菜】: ( 「な」は、菜(な)と魚(な)とに通じて副食物をいう ) 朝食の副食物にするもの。
 波しぶきがかかっても、楽しげな乙女の姿である。

 さりくこら かしひのかたに しろたへの そでさへぬれて あさなつみてむ

2026年10月18日日曜日

【萬葉集06 0956】

06 0956 帥大伴卿和歌一首[帥大伴卿の和へたる歌一首帥大伴卿の和へたる歌一首]
 06 0956 八隅知之(やすみしし)吾大王乃(わごおほきみの)御食國者(をすくには)日本毛此間毛(やまともここも)同登曽念(おやじとぞおもふ) 

 やすみ-しし 【八隅知し・安見知し】:国の隅々までお治めになっている意で、「わが大君」「わご大君」にかかる。
 「食国(をすくに)」:食をもって国を治める。 

 『此』の字には少なくとも、此(シ)・ 此(これ)・ 此(ここ)・ 此の(この)・ 此く(かく)の5種の読み方が存在する。
 間:[音]ケン(呉)カン(漢)[訓]あいだ 、ま(表内) あい、あわい[あはひ]、しばら-く、しば-し、ひそ-か、うかが-う、しず-か、はざま、このごろ、まま、へだ-てる、まじ-わる、あずか-る、か-わる、い-える 
 此(ここ)+間(このごろ)=(ここ) 

 おや・じ 【同じ】:同(おな)じ。
 思ふ(もう):念ふ。「思う」の意味で用いられることのある表現。古語。
明らかに、「長屋王の変」に対して、忠臣であることをほのめかしている。

やすみしし わごおほきみの をすくには やまともここも おなじとぞもふ

2026年10月11日日曜日

【萬葉集06 0955】

06 0955 大宰小貳石川朝臣足人歌一首[大宰少弐石川朝臣足人(たりひと)の歌一首] 
 大宰帥(そち)の大伴旅人(おおともの-たびと)へおくった歌だという。 
 06 0955 刺竹之(さすたけの)大宮人乃(おほみやひとの)家跡住(いへとすむ)佐保能山乎者(さほのやまをば)思哉毛君(おもふやもきみ) 

 さすたけ-の 【刺す竹の】:「君」「大宮人」「皇子(みこ)」「舎人男(とねりをとこ)」など宮廷関係の語にかかる。「さすだけの」とも。
 おおみや‐びと〔おほみや‐〕【大宮人】:《上代は「おほみやひと」》宮中に仕える人。殿上人(てんじょうびと)。 
『跡』の字には少なくとも、跡(セキ)・ 跡(シャク)・ 跡(あと)の3種の読み方だが、万葉仮名借訓として(と)
 と(格助詞):〔目的〕…として。…と言って。…と思って。 
上の句だけなら、常套手段ってもんだが、三句目の(いへとすむ)なんておかしいよね。


 ところが四句目で、(さほのやまをば)とくる。
【故地名】佐保の山(さほのやま):奈良県奈良市 佐保山の麓は万葉歌人大伴家持、大伴旅人、大伴坂上郎女を輩出した、佐保の大伴氏をはじめ、高級貴族の邸宅地でした。
 しかし大事なのは、長屋王主催の佐保楼と呼ばれた文化サロンもあったということだ。

 ここで五句目(おもふやもきみ) が生きるんよ。
もちろん、長屋王の変を踏まえての話だよ。
憤懣やるかたない旅人のことを思っての歌である。
や-も:…かなあ、いや、…ない。▽詠嘆の意をこめつつ反語の意を表す。 

 さすたけの おほみやひとの いえとすむ さほのやまをば おもふやもきみ

2026年10月3日土曜日

【萬葉集06 0954】

06 0954 膳王歌一首 
膳王(かしわでおう、生年不詳 - 729)は、左大臣・長屋王の子である。

 06 0954 朝波(あしたには)海邊尓安左里為(うみへにあさりし)暮去者(ゆふされば)倭部越(やまとへこゆる)鴈四乏母(かりしともしも) 

 『朝』の字には少なくとも、朝(チョウ)・ 朝(チュ)・ 朝(あした)・ 朝(あさ)の4種の読み方が存在する。 
『左』の字には少なくとも、左(サ)・ 左(ひだり)の2種の読み方が存在する。 
『里』の字には少なくとも、里(リ)・ 里(さと)の2種の読み方が存在する。
 左(サ)+ 里(さと)=(さ)で、(うみへにあさし)と思った。 
『為』の字には少なくとも、為(イ)・ 為る(なる)・ 為す(なす)・ 為る(つくる)・ 為(ため)・ 為る(する)の6種の読み方が存在し、 里(リ)+為(イ)=(りィ)のほうがいいよね。
 あさ・る 【漁る】:えさや食物を探し求める。
 二句目(うみへにあさりし)は、(うみへにあさりィ) 

 暮:[音]ム、モ(呉) ボ (漢)[訓]く-れる、く-らす (表内)ゆうひ 
ゆふ-さ・る 【夕さる】:夕方になる。日暮れになる。
 かり 【雁・鴈】:鳥の名。がん。秋に渡来し、春に北へ帰る。
 ともし【乏し、羨し】:羨(うらや)ましい。 

 神亀5年(728年)の聖武天皇の難波宮行幸の際に詠んだとされる歌だが、神亀6年(729年)2月に密告によって長屋王が謀反の疑いをかけられ、膳王も、吉備内親王〔太上(元正)天皇の妹〕や弟たちとともに縊死した(長屋王の変)となれば、特別な歌になる。

あしたには うみへにあさり ゆふされば やまとへこゆる かりしともしも

 06 0954 右作歌之年不審也 但以歌類便載此次[右は、作歌の年審らかならず。ただ、歌の類をもちて便ちこの次に載す]

2026年9月27日日曜日

【萬葉集06 0950・0951・0952・0953】

06 0950 五年戊辰幸于難波宮時作歌四首[五年戊辰、難波宮に幸しし時に作れる歌四首]
 06 0950 大王之(おほきみの)界賜跡(さかひたまふと)山守居(やまもりすゑ)守云山尓(もるといふやまに)不入者不止 (いらずはやまじ )

さか・ふ 【境ふ】:境界線をつける。区切る。
 やま-もり 【山守】:山を守ること。山の番をすること。また、その人。
『居』の字には少なくとも、居(コ)・ 居(キョ)・ 居(キ)・ 居る(おる)・ 居く(おく)・ 居る(いる)の6種の読み方が存在する。
 三句目(やまもりすゑ)は、(やまもりい)
 四句目(もるといふやまに)は、(もるいふやまに)
ふ‐にゅう〔‐ニフ〕【不入】:立ち入らないこと。また、入り込めないこと。
  『者』の字には少なくとも、者(シャ)・ 者(もの)の2種の読み方が存在する。 
や・む【▽止む/×已む/▽罷む】: 続いていたことがとまる。物事にきまりがつく。
五句目(いらずはやまじ )は、(ふにゅうしゃやまず)

おほきみの さかひたまふと やまもりい もるいふやまに ふにゅうしゃやまず

 06 0951 見渡者(みわたせば)近物可良(ちかきものから)石隠(いそがくり)加我欲布珠乎(かがよふたまを)不取不已(とらずはやまじ)

 いそ-がく・る 【磯隠る】:海辺の岩石の陰に隠れる。人目につかない辺鄙(へんぴ)な所に隠れ住む。
かがよ・ふ 【耀ふ】:きらきら光って揺れる。きらめく。 
 『已』の字には少なくとも、已(シ)・ 已(コ)・ 已(キ)・ 已(イ)・ 已む(やむ)・ 已だ(はなはだ)・ 已(のみ)・ 已に(すでに)の8種の読み方が存在する。
 五句目(とらずはやまじ)は、(とらずをやめじ) 

みわたせば ちかきものから いそがくり かがよふたまを とらずをやめじ        

06 0952 韓衣(からころも)服楢乃里之(きならのさとの)嬬待尓(つままつに)玉乎師付牟(たまをしつけむ)好人欲得(よきひともがも)

たま【玉】:美しいものをほめていう。
 しつけ【仕付(け)】:設置すること。
 もが-も:〔願望〕…があったらなあ。…があればいいなあ。  
『欲』の字には少なくとも、欲(ヨク)・ 欲(ユ)・ 欲する(ほっする)・ 欲しい(ほしい)の4種の読み方が存在する。
 『得』の字には少なくとも、得(トク)・ 得る(える)・ 得る(うる)の3種の読み方が存在する。
つまり、「そんな人がいたらなぁ」ってことになるけど、解釈に苦しむ【好人欲得】

からころも きならのさとの つままつに たまをしつけむ よきひともがも

  06 0953 竿壮鹿之(さをしかの)鳴奈流山乎(なくなるやまを)越将去(こえゆかむ)日谷八君(ひだにやきみが)當不相将有(はたあはざらむ)

さ-をしか 【小牡鹿】:雄の鹿(しか)。◆「さ」は接頭語。 
『流』の字には少なくとも、流(ル)・ 流(リュウ)・ 流れる(ながれる)・ 流す(ながす)の4種の読み方が存在する。
  二句目(なくなるやまを)は、(なくなりやまを)
 ひた-と 【直と・専と】:ひたすら。▽もっぱらその状態であるようす。
 四句目(ひだにやきみが)は、(ひたにやきみが)
 はた【▽将/▽当】:ひょっとすると。 
 ざら‐・む: …しないだろう。 

 さをしかの なくなりやまを こえゆかむ ひたにやきみが はたあはざらむ 

 06 0953 右笠朝臣金村之歌中出也 或云車持朝臣千年作之也[右は、笠朝臣金村の歌の中に出づ。或は云はく、「車持朝臣千年の作」といへり]

2026年9月20日日曜日

【萬葉集06 0948・0949】

06 0948 四年丁卯春正月勅諸王諸臣子等散禁於授刀寮時作歌一首[四年丁卯の春正月、諸の王・諸の臣子等に勅して、授刀寮(たちはきのりょう)に散禁(さんきん)せしめし時に、作れる歌一首]并短歌〔并せて短歌〕  

 「神亀4年(727年)正月、侍従侍衛の任を怠けた官人を授刀寮に散禁した」という。

 06 0948 真葛延(まくずはふ)春日之山者(かすがのやまは)打靡(うちなびく)春去徃跡(はるさりゆくと)山上丹(やまのへに)霞田名引(かすみたなびく)高圓尓(たかまとに)鸎鳴沼(うぐひすなきぬ)物部乃(もののふの)八十友能壮者(やそとものをは)折木四哭之(かりがねの)来継比日(きつぐこのころ)如此續(かくつぎて)常丹有脊者(つねにありせば)友名目而(ともなめて)遊物尾(あそばましものを)馬名目而(うまなめて)徃益里乎(ゆかましさとを)待難丹(まちがてに)吾為春乎(わがするはるを)决巻毛(かけまくも)綾尓恐(あやにかしこし)言巻毛(いはまくも)湯〃敷有跡(ゆゆしくあらむと)豫(あらかじめ)兼而知者(かねてしりせば)千鳥鳴(ちどりなく)其佐保川丹(そのさほがはに)石二生(いはにおふる)菅根取而(すがのねとりて)之努布草(しのふくさ)解除而益乎(はらへてましを)徃水丹(ゆくみづに)潔而益乎(みそぎてましを)天皇之(おほきみの)御命恐(みことかしこみ)百礒城之(ももしきの)大宮人之(おほみやひとの)玉桙之(たまほこの)道毛不出(みちにもいでず)戀比日(こふるこのころ)

 かけ-ま-く-も:心にかけて思うことも。言葉に出して言うことも。 
いは-ま-く-も 【言はまくも】:口に出して言うのも。 
由々しき一大事だ 二十句目(ゆゆしくあらむと)は、(ゆゆしからむと) 
 二十九句目(いはにおふる)は、(いはにおふ)
 しのふ 【偲ふ】(上代語):思い慕う。
「まさに、後悔先に立たず」なんだよなぁ。

 06 0949 反歌一首
 06 0949 梅柳(うめやなぎ)過良久惜(すぐらくをしみ)佐保乃内尓(さほのうちに)遊事乎(あそびしことを)宮動〃尓(みやもとどろに) 

 『乃』の字には少なくとも、乃(ノ)・ 乃(ナイ)・ 乃(ダイ)・ 乃(アイ)・ 乃(の)・ 乃(なんじ)・ 乃ち(すなわちの7種の読み方が存在する。
 『内』の字には少なくとも、内(ノウ)・・ 内(ドウ)・ 内(ダイ)・ 内(ゼイ)・ 内(うち)・ 内る(いる)の7種の読み方が存在する。
 乃(ナイ)+ 内(ナイ)=(ない) 
三句目(さほのうちに)は、(さほないに) 
『比』の字には少なくとも、比(ビチ)・ 比(ビ)・ 比(ヒツ)・ 比(ヒ)・ 比ぶ(ならぶ)・ 比(たぐい)・ 比(ころ)・ 比べる(くらべる)の8種の読み方が存在する。 
『動』の字には少なくとも、動ドウ・ 動トウ・ 動ズ・ 動もすればややもすれば・ 動くうごく・ 動かすうごかすの6種だが、とどろ(に・と) 【轟(に・と)】は、[どうどう。ごうごう。▽大きな音が鳴り響くさま]で、「動〃」を義訓とした。

 06 0949 右神龜四年正月 數王子及諸臣子等 集於春日野而作打毬之樂 其日忽天陰雨雷電 此時宮中無侍従及侍衛 勅行刑罰皆散禁於授刀寮而妄不得出道路 于時悒憤即作斯歌[右は、神亀四年の正月に数の王子また諸の臣子等の春日野に集ひて、打毬の楽を作す。 その日忽ちに天雲り雨ふり雷なり電す。この時に宮の中に侍従と侍衛と無し。勅して刑罰に行ひ、皆授刀寮に散禁して妄りて道路に出づることを得ずあらしむ。時に悒憤(ゆうふん)し、即ちこの歌を作れり]作者未詳

2026年9月13日日曜日

【萬葉集06 0946・0947】

06 0946 過敏馬浦時山部宿祢赤人作歌一首[敏馬の浦を過ぎし時に、山部宿祢赤人の作れる歌一首]并短歌〔并せて短歌〕 
 06 0946 御食向(みけむかふ)淡路乃嶋二(あはぢのしまに)直向(ただむかふ)三犬女乃浦能(みぬめのうらの)奥部庭(おきへには)深海松採(ふかみるとる)浦廻庭(うらみには)名告藻苅(なのりそかる)深見流乃(ふかみるの)見巻欲跡(みまくほしけど)莫告藻之(なのりその)己名惜三(おのがなをしみ)間使裳(まづかひも)不遣而吾者(やらずてわれは)生友奈重二(いけりともなし) 

 みけむかふ【御食向かふ】:「淡路(あはぢ)」「城上(きのへ)」「南淵(みなぶち)」「味原(あぢふ)」などの地名にかかる枕詞。 
 【故地名】敏馬の浦(みぬめのうら):兵庫県神戸市 
 おき-へ 【沖方・沖辺】:沖の方。沖の辺り。 
 ふか-みる 【深海松】:海底深く生えている海松(みる)(=海藻の一種)。
 六句目(ふかみるとる)は、(ふかみるをとる)
 うら-み 【浦廻・浦回】:入り江。海岸の曲がりくねって入り組んだ所。「うらわ」とも。
 なのりそ:海藻のほんだわらの古名。正月の飾りや、食用・肥料とする。 
『藻』の字には少なくとも、藻(ソウ)・ 藻(も)・ 藻(あや)の3種の読み方が存在する。 八句目(なのりそかる)は、(なのりそをかる)
 み-まく-ほ・し 【見まく欲し】:見たい。会いたい。
「(ふか-みる)(なのりそ)と歌いこんでの、前哨戦である」

そしてやっと本音を歌いだすのだ。
 ま-づかひ 【間使ひ】:消息などを伝えるために、人と人との間を行き来する使者。
 いけ【生】 り ともなし:生きているとも感じられない。生きているように思われない。
「告白せずして、何の生きがいがあろう」というわけよ。

 06 0947 反歌一首
 06 0947 為間乃海人之(すまのあまの)塩焼衣乃(しほやききぬの)奈礼名者香(なれなばか)一日母君乎(ひとひもきみを)忘而将念(わすれておもは)

 為:[音]イ(呉・漢)[訓]読み: ため、な-す、な-る、す-る (活用系:「し」「せ」「さ」)、つく-る、おさ-める[をさむ] 
『乃』の字には少なくとも、乃(ノ)・ 乃(ナイ)・ 乃(ダイ)・ 乃(アイ)・ 乃(の)・ 乃(なんじ)・ 乃ち(すなわち)の7種の読み方が存在する。
 海人 (あま):あまの漢字表記。 
乃(アイ)+海人 (あま)=(あま)
 一句目(すまのあまの)は、(すまあまの)でもいいのだけれど、ここは(しまあまの) 『礼』の字には少なくとも、礼(レイ)・ 礼(リ)・ 礼(ライ)・ 礼(のり)・ 礼う(うやまう)の5種の読み方が存在する。 
なり-な・る 【成り成る】:しだいに出来上がる。
 『者』の字には少なくとも、者(シャ)・ 者(もの)の2種の読み方が存在する。 
三句目(なれなばか)は、(なりなしか) 
 『而』の字には少なくとも、而(ノウ)・ 而(ニ)・ 而(ドウ)・ 而(ジ)・ 而(なんじ)・ 而れども(しかれども)・ 而るに(しかるに)・ 而も(しかも)・ 而して(しかして)の9種の読み方が存在する。 
『将』の字には少なくとも、将(ソウ)・ 将(ショウ)・ 将に…す(まさに…す)・ 将いる(ひきいる)・ 将(はた)の5種の読み方が存在するけれど、(うける)もあるという。
 『念』の字には少なくとも、念(ネン)・ 念(デン)・ 念う(おもう)の3種の読み方が存在する。
 将レ念→念う(おもう)+将(うける)=(おもう)
 五句目(わすれておもは)は、(わすれじおもふ) 

 しまあまの しほやききぬの なりなしか ひとひもきみを わすれじおもふ 

 06 0947 右作歌年月未詳也 但以類故載於此次[右は、作歌の年月いまだ詳らかならず。ただ、類をもちての故に、この次に載す]

2026年9月6日日曜日

【萬葉集06 0942・0943・0944・0945】

06 0942 過辛荷嶋時山部宿祢赤人作歌一首[辛荷の島を過ぎし時に、山部宿祢赤人の作れる歌一首]并短歌〔并せて短歌〕 
 06 0942 味澤相(あぢさはふ)妹目不數見而(いもがめかれて)敷細乃(しきたへの)枕毛不巻(まくらもまかず)櫻皮纒(かにはまき)作流舟二(つくれるふねに)真梶貫(まかぢぬき)吾榜来者(わがこぎくれば)淡路乃(あはぢの)野嶋毛過(のしまもすぎ)伊奈美嬬(いなみつま)辛荷乃嶋之(からにのしまの)嶋際従(しまのまゆ)吾宅乎見者(わぎへをみれば)青山乃(あをやまの)曽許十方不見(そこともみえず)白雲毛(しらくもも)千重尓成来沼(ちへになりきぬ)許伎多武流(こぎたむる)浦乃盡(うらのことごと)徃隠(ゆきかくる)嶋乃埼〃(しまのさきざき)隈毛不置(くまもおかず)憶曽吾来(おもひぞあがくる)客乃氣長弥(たびのけながみ) 

 あぢさはふ【味沢相・味澤相】:あぢ(鴨の名)と呼ばれた渡り鳥が沢に滞在し、夜も昼も構わず鳴き続けるさま。 泣き続ける。 
 め-かれ 【目離れ】:目が離れること。会わないでいること。疎遠になること。
 五句目(かにはまき)は、(おうひまき)
真楫繁貫(まかじじぬ・く):船に左右そろった櫂かいをたくさん取り付ける。
九句目(あはぢの)は、(あはみちの)
 つま 【端】:はし。へり。
 【故地名】辛荷の島(からにのしま):兵庫県揖保郡御津町室津地ノ唐荷島・中ノ唐荷島・沖ノ唐荷島。 
 くま【隈、暈】:隠れたところ。奥まったところ。 
ふち【淵・渕・渊・潭】:脱出し難い厳しい境遇。
 二十三句目(くまもおかず)は、(くまもふち)
 二十四句目(おもひぞあがくる)は、(おもひぞあがく) 
 かく【斯く】:かように、このように、こうして。
 け-なが・し 【日長し】:日数が長くたっている。
 二十五句目(たびのけながみ)は、(かくのけながみ)

 06 0943 反歌三首 06 0943 玉藻苅(たまもかる)辛荷乃嶋尓(からにのしまに)嶋廻為流(しまみする)水烏二四毛有哉(うにしもあれや)家不念有六(いへおもはざらむ)

 う 【鵜】:水鳥の名。鵜飼いに使わ)れる。[季語] 夏。 
『家』の字には少なくとも、家(コ)・ 家(ケ)・ 家(カ)・ 家(や)・ 家(うち)・ 家(いえ)の6種の読み方が存在する。
 五句目(いへおもはざらむ)は、(けおもはざらむ)

 06 0944 嶋隠(しまがくり)吾榜来者(わがこぎくれば)乏毳(ともしかも)倭邊上(やまとへのぼる)真熊野之船(まくまののふね)

 『毳』の字には少なくとも、毳(ゼイ)・ 毳(セツ)・ 毳(セチ)・ 毳(セイ)・ 毳(セ)・ 毳(ケチ)・ 毳(カツ)・ 毳らかい(やわらかい)・ 毳(むくげ)・ 毳(にこげ)・ 毳(そり)・ 毳(けば)の12種の読み方が存在する。
 三句目(ともしかも)は、(ともにこげ) 

しまがくり わがこぎくれば ともにこげ やまとへのぼる まくまののふね

 06 0945 風吹者(かぜふけば)浪可将立跡(なみかたたむと)伺候尓(さもらひに)都太乃細江尓(つだのほそえに)浦隠居(うらがくりをり) 

 【故地名】都太の細江(つだのほそえ):兵庫県姫路市
 さ-もら・ふ 【候ふ・侍ふ】:ようすを見ながら機会をうかがう。見守る。

2026年8月30日日曜日

【萬葉集06 0938・0939・0940・0941】

06 0938 山部宿祢赤人作歌一首[山部宿祢赤人の作れる歌一首]并短歌〔并せて短歌〕 
 06 0938 八隅知之(やすみしし)吾大王乃(わごおほきみの)神随(かむながら)高所知流(たかしらせる)稲見野能(いなみのの)大海乃原笶(おほうみのはらの)荒妙(あらたへの)藤井乃浦尓(ふぢゐのうらに)鮪釣等(しびつると)海人船散動(あまぶねさわく)塩焼等(しほやくと)人曽左波尓有(ひとぞさはにある)浦乎吉美(うらをよみ)宇倍毛釣者為(うべもつりはす)濱乎吉美(はまをよみ)諾毛塩焼(うべもしほやく)蟻徃来(ありがよひ)御覧母知師(めさくもしるし)清白濱(きよきしらはま)

 たか-し・る 【高知る】:立派に治める。
 四句目(たかしらせる)は、(たかしらしめる) 
【故地名】印南野(いなみの):兵庫県印南の地一帯の丘陵性の原野。 
【故地名】大海の原(おおみのはら):兵庫県明石市市魚住町から東方の丘陵にわたる一帯の地。同市二見町東二見小字大見はその遺称か。聖武天皇の神亀3年10月の『続紀』の行幸記事に「至二印南野邑美頓宮一」とある。 
六句目(おほうみのはらの)は(おほみのはらの)
 【故地名】藤井の浦(ふじいのうら):兵庫県明石市藤江の浦のこと。→藤江の浦 
さ-は 【然は】:そうは。そのようには。 
『有』の字には少なくとも、有(ユウ)・ 有(ウ)・ 有つ(もつ)・ 有る(ある)の4種の読み方が存在する。
 十二句目(ひとぞさはにある)は、(ひとぞさはにも)
 徃:[音] オウ(呉・漢)[訓]い-く、いにしえ、さき-に、ゆ-く、みち
 十七句目(ありがよひ)は、(ありゆきき)
 『御』の字には少なくとも、御(ゴ)・ 御(ゲ)・ 御(ギョ)・ 御(ガ)・ 御(み)・ 御(おん)・ 御める(おさめる)・ 御(お)の8種の読み方が存在する。 
『覧』の字には少なくとも、覧(ラン)・ 覧る(みる)の2種の読み方が存在する。 御(み)+覧る(みる)=(みる) 
『母』の字には少なくとも、母(モ)・ 母(ム)・ 母(ボウ)・ 母(ボ)・ 母(はは)の5種の読み方が存在する。
 十八句目(さくもしるし)は、(みるもしらしめ)

 06 0939 反歌三首 
06 0939 奥浪(おきつなみ)邊波安美(へなみしづけみ)射去為登(いざりすと)藤江乃浦尓(ふぢえのうらに)船曽動流 (ふねぞさわける)

 へ-なみ 【辺波】:岸に寄せる波。船べりに寄せる波。[反対語] 沖つ波。
 いざり 【漁り】:漁をすること。

 06 0940 不欲見野乃(いなみのの)淺茅押靡(あさぢおしなべ)左宿夜之(さぬるよの)氣長在者(けながくしあれば)家之小篠生(いへししのはゆ) 

 不欲は「欲せざる」で、「いな」の義訓 
おし-な・ぶ【押し靡ぶ】:押しなびかせる。
「おしなむ」とも。
 さ-・ぬ 【さ寝】:寝る。
 け-なが・し 【日長し】:日数が長くたっている。

 06 0941 明方(あかしがた)潮干乃道乎(しほひのみちを)従明日者(あすよりは)下咲異六(したゑましけむ)家近附者(いへちかづけば)

した-ゑま・し 【下笑まし】:心の中でうれしく思う。

2026年8月23日日曜日

【萬葉集06 0935・0936・0937】

06 0935 三年丙寅秋九月十五日幸於播磨國印南野時笠朝臣金村作歌一首[三年丙寅の秋九月十五日、播磨国の印南野に幸しし時に、笠朝臣金村の作れる歌一首]并短歌〔并せて短歌〕
 06 0935 名寸隅乃(なきすみの)船瀬従所見(ふなせゆみゆる)淡路嶋(あはぢしま)松帆乃浦尓(まつほのうらに)朝名藝尓(あさなぎに)玉藻苅管(たまもかりつつ)暮菜寸二(ゆふなぎに)藻塩焼乍(もしほやきつつ)海未通女(あまをとめ)有跡者雖聞(ありとはきけど)見尓将去(みにゆかむ)餘四能無者(よしのなければ)大夫之(ますらをの)情者梨荷(こころはなしに)手弱女乃(たわやめの)念多和美手(おもひたわみて)俳佪(たもとほり)吾者衣戀流(あれはぞこふる)船梶雄名三(ふねかぢをなみ) 

 【故地名】名寸隅(なきすみ):兵庫県明石市魚住町・大久保町一帯の地。 
ふな‐せ【船瀬】:船が風波を避けるために停泊する所。 
松帆の浦:今の兵庫県の淡路島の北端にある海辺で、明石海峡をはさんで須磨・明石の地をのぞむ。
 あま-をとめ 【海人少女】:海で働く少女。 
よし‐な・い【由無い】: そうするいわれがない。理由がない。
 こころなし【心無し】:思慮、おもいやりがないこと。 
おもひ-たわ・む 【思ひ撓む】:気持ちがくじける。 
た-もとほ・る 【徘徊る】:行ったり来たりする。歩き回る。 
まるで、♪潮風を待つ少女♪(安達明)を歌ってるようだ。 

 06 0936 反歌二首 
06 0936 玉藻苅(たまもかる)海未通女等(あまをとめども)見尓将去(みにゆかむ)船梶毛欲得(ふねかぢもがも)浪高友(なみたかくとも) 

 さぞかし、「噂にたがわぬ少女たちがいるんだろうなぁ?」という思いが高まる。

 06 0937 徃廻(ゆきめぐり)雖見将飽八(みともあかめや)名寸隅乃(なきすみの)船瀬之濱尓(ふなせのはまに)四寸流思良名美(しきるしらなみ)

 しきる【頻る】:何度も起こる。度重なる。 
「今や、夢と憧れになってしまったけれど、この波を乗り越えてきっと船出するぞ」という決意がうかがえる。

2026年8月16日日曜日

【萬葉集06 0933・0934】

06 0933 山部宿祢赤人作歌一首[山部宿祢赤人の作れる歌一首]并短歌〔并せて短歌〕 
06 0933 天地之(あめつちの)遠我如(とほきがごとく)日月之(ひつきの)長我如(ながきがごとく)臨照(おしてる)難波乃宮尓(なにはのみやに)和期大王(わごおほきみ)國所知良之(くにしらすらし)御食都國(みけつくに)日之御調等(ひのみつきと)淡路乃(あはぢの)野嶋之海子乃(のしまのあまの)海底(わたのそこ)奥津伊久利二(おきついくりに)鰒珠(あはびたま)左盤尓潜出(さはにかづきで)船並而(ふねなめて)仕奉之(つかへまつるし)貴見礼者(たふとしみれば)

 三句目(ひつきの)は、(じつげつの)
 じつ-げつ 【日月】:月日(つきひ)。歳月。 
五句目(おしてる)は、(のぞみてる)
 のぞ・む 【望む】:遠くから眺めやる。
 『大』の字には少なくとも、大(ダイ)・ 大(ダ)・ 大(タイ)・ 大(タ)・ 大きい(おおきい)・ 大いに(おおいに)・ 大(おお)の7種の読み方が存在する。 
『王』の字には少なくとも、王(オウ)・ 王(きみ)の2種の読み方が存在する。
 大(おお)+王(オウ)=(おう)
七句目(わごおほきみ)は、(わごおうの) 

 『等』の字には少なくとも、等(トウ)・ 等(タイ)・ 等(ら)・ 等しい(ひとしい)・ 等(など)の5種の読み方が存在する。
ひ【日】 の 調(みつき):調を貢納する形の一つ。古く、日ごとに天皇供御料(くごりょう)として朝廷にたてまつっていたみつぎもの。
和泉・紀伊・淡路・近江・若狭の五か国が、日を分担して、食料品を献上していた。
十句目(ひのみつきと)は、(ひのみつきとう)
『乃』の字には少なくとも、乃(ノ)・ 乃(ナイ)・ 乃(ダイ)・ 乃(アイ)・ 乃(の)・ 乃(なんじ)・ 乃ち(すなわち)の7種の読み方が存在する。
 十一句目(あはぢの)は、(あはぢなる)
 海:[音]カイ(呉・漢)ハイ(唐)[訓]あま、うみ(表内)わた 
 さは-に 【多に】:たくさん。 
 かづ・く 【潜く】:水中にもぐる。
『之』の字には少なくとも、之(シ)・ 之く(ゆく)・ 之(の)・ 之(これ)・ 之(の)このの5種の読み方が存在する。

あめつちの とほきがごとく じつげつの ながきがごとく のぞみてる なにはのみやに わごおうの くにしらすらし みけつくに ひのみつきとう あはぢなる のしまのあまの わたのそこ おきついくりに あはびたま さはにかづきて ふねなめて つかまつりし たふとしみれば 

 06 0934 反歌一首 
06 0934 朝名寸二(あさなぎに)梶音所聞(かぢのおときこゆ)三食津國(みけつくに)野嶋乃海子乃(のしまのあまの)船二四有良信(ふねにしあるらし) 

 『音』の字には少なくとも、音(オン)・ 音(イン)・ 音(ね)・ 音り(たより)・ 音(おと)の5種の読み方が存在する。 
『所』の字には少なくとも、所(ソ)・ 所(ショ)・ 所(ところ)の3種の読み方が存在する。 
音(おと)+ 所(ところ)=(おと)
 二句目は(かぢのおときこゆ)でなく、(かぢのおときく)


2026年8月9日日曜日

【萬葉集06 0931・0932】

06 0931 車持朝臣千年作歌一首[車持朝臣千年の作れる歌一首]并短歌〔并せて短歌〕  
06 0931 鯨魚取(いさなとり)濱邊乎清三(はまへをきよみ)打靡(うちなびき)生玉藻尓(おふるたまもに)朝名寸二(あさなぎに)千重浪縁(ちへなみよる)夕菜寸二(ゆふなぎに)五百重波因(いほへなみよる)邊津浪之(へつなみの)益敷布尓(いやしくしくに)月二異二(つきにけに)日日雖見(ひにひにみとも)今耳二(いまのみに)秋足目八方(あきだらめやも)四良名美乃(しらなみの)五十開廻有(いさきめぐれる)住吉能濱(すみのえのはま)

 いさな-とり 【鯨取り】:いさな(=くじら)を捕る所の意から、「海」「浜」などにかかる。 
「えびす(蛭子、戎、恵比寿など)は外来の神としての性格を持ち、外洋から訪れる鯨にえびすの神格が重ねられる」
 ちへ-なみ 【千重波・千重浪】:幾重にも重なって寄せる波。 
よ・る 【寄る・依る】:近づく。近寄る。接近する。 
六句目(ちへなみよる)は、(ちへなみよせる)

 へつなみ【辺つ波】:岸辺に打うち寄せる波。 
『益』の字には少なくとも、益(ヤク)・ 益(エキ)・ 益(イツ)・ 益(イチ)・ 益(ますます)・ 益す(ます)の6種の読み方が存在する。
 『敷』の字には少なくとも、敷(フ)・ 敷く(しく)の2種の読み方が存在する。 
『布』の字には少なくとも、布(ホ)・ 布(フ)・ 布(ぬの)・ 布く(しく)の4種の読み方が存在する。
 【飽(き)足る・慊る】:〔古くは「あきだる」。多く下に打ち消しの語を伴う〕十分に満足する。あきたりる
 いさき‐めぐ・る【いさき廻】: ( 「い」は接頭語 ) 波がしらが白く砕けて、岸べ一帯に打ち寄せる。いさく。
神の出入り口である住吉をたたえた歌で、【今耳二】から【住吉能濱】が如実に語っているけれど、さらなる繁栄を願っている。

 06 0932 反歌一首 
06 0932 白浪之(しらなみの)千重来縁流(ちへにきよする)住吉能(すみのえの)岸乃黄土粉(きしのはにふに)二寶比天由香名(にほひてゆかな)

 はに-ふ 【埴生】:「埴(はに)」のある土地。きめの細かい黄赤色の粘土。 
にほひ【匂ひ】:美しい色合。

2026年8月2日日曜日

【萬葉集06 0928・0929・0930】

06 0928 冬十月幸于難波宮時笠朝臣金村作歌一首[冬十月、難波宮に幸しし時に、笠朝臣金村の作れる歌一首]并短歌〔并せて短歌〕 
 06 0928 忍照(おしてる)難波乃國者(なにはのくには)葦垣乃(あしかきの)古郷跡(ふりにしさとと)人皆之(ひとみなの)念息而(おもひやすみて)都礼母無(つれもなく)有之間尓(ありしあひだに)續麻成(うみをなす)長柄之宮尓(ながらのみやに)真木柱(まきばしら)太高敷而(ふとたかしきて)食國乎(をすくにを)治賜者(をさめたまへば)奥鳥(おきつとり)味経乃原尓(あぢふのはらに)物部乃(もののふの)八十伴雄者(やそとものをは)廬為而(いほりして)都成有(みやこなしたり)旅者安礼十方(たびにはあれども)

 おしてる【押し照る】:「難波」にかかる枕詞。
 一句目は、(おしてる)でなく、(おしてるや) 

 『續』の字には少なくとも、續(ゾク)・ 續(ショク)・ 續ける(つづける)・ 續く(つづく)・ 續ぐ(つぐ)の5種の読み方が存在する。 
『麻』の字には少なくとも、麻(マ)・ 麻(バ)・ 麻れる(しびれる)・ 麻(あさ)の4種の読み方が存在する。 
『成』の字には少なくとも、成(セイ)・ 成(ジョウ)・ 成る(なる)・ 成す(なす)の4種の読み方が存在する。 
ま・す 【坐す・座す】:いらっしゃる。おいでである。おありである。▽「あり」の尊敬語。
九句目 (うみをなす)は、(つづきませ)
【故地名】味経の原(あじふのはら):大阪府大阪市天王寺区
『者』の字には少なくとも、者(シャ)・ 者(もの)の2種の読み方が存在する。

おしてるや なにはのくには あしかきの ふりにしさとと ひとみなの おもひやすみて つれもなく ありしあひだに つづきませ ながらのみやに まきばしら ふとたかしきて をすくにを をさめたまへば おきつとり あぢふのはらに もののふの やそとものをは いほりして みやこなしたり たびしあれども

 06 0929 反歌二首 
06 0929 荒野等丹(あらのらに)里者雖有(さとはあれども)大王之(おほきみの)敷座時者(しきますときは)京師跡成宿(みやことなりぬ)
 06 0930 海未通女(あまをとめ)棚無小舟(たななしをぶね)榜出良之(こぎづらし)客乃屋取尓(たびのやどりに)梶音所聞(かじのおときく)

 『音』の字には少なくとも、音(オン)・ 音(イン)・ 音(ね)・ 音り(たより)・ 音(おと)の5種の読み方が存在する。 
『所』の字には少なくとも、所(ソ)・ 所(ショ)・ 所(ところ)の3種の読み方が存在する。
 音(おと)+ 所(ところ)=(おと)

2026年7月26日日曜日

【萬葉集 0926・0927】

06 0926 安見知之(やすみしし)和期大王波(わごおほきみは)見吉野乃(みよしのの)飽津之小野笶(あきづのをのの)野上者(ののうへには)跡見居置而(とみすゑおきて)御山者(みやまには)射目立渡(いめたてわたし)朝獵尓(あさがりに)十六履起之(ししふみおこし)夕狩尓(ゆふがりに)十里蹋立(とりふみたて)馬並而(うまなめて)御獵曽立為(みかりぞたたす)春之茂野尓(はるのしげのに)

 五句目は(ののうへには)でなく、(のうへには)
と-み 【跡見】:狩猟のとき、鳥や獣の通った跡を見つけて、その行方を推しはかること。また、その役の人。 
十六:四×四→(しし)
 しし 【獣・鹿・猪】:けだもの。特に、その肉を食用とする獣(けもの)をいい、鹿(しか)・猪(いのしし)をさすことが多い。
おこ・す 【起こす】:追い立てる 

 とり- 【取り】:動作を表す動詞の上に付いて、語勢を強める。「とりそふ」「とりつくろふ」
 蹋:[音]トウ、ドウ[訓]ふむ」 
ふみ‐た・てる【踏(み)立てる】:地面を踏んで音をたて鳥などを追い出す。
 十二句目(とりふみたて)は、(とりふみたてて) 

 06 0927 反歌一首
 06 0927 足引之(あしひきの)山毛野毛(やまにものにも)御獵人(みかりひと)得物矢手挾(さつやたばさみ)散動而有所見(さわきてありみゆ)

 ここでは、得物矢(ともや)を【猟矢】と訓んでいるが義訓である。
 た-ばさ・む 【手挟む】:手に挟んで持つ。脇(わき)に挟んで持つ。
 四句目は(さつやたばさみ)は、(ともやたばさみ)
 さん‐どう【散動】: あちらこちら、まとまりなく動くこと。また、心が混乱すること。混乱して取り乱したふるまいをすること。 
五句目(さわきてありみゆ)は、(さんどうしみゆ) 

あしひきの やまにものにも みかりひと ともやたばさみ さんどうしみゆ

 06 0927 右不審先後 但以便故載於此次[右の歌は他の歌との前後関係がはっきりしない。ただ便宜によってここに載せる]

2026年7月19日日曜日

【萬葉集06 0923・0924・0925】

06 0923 山部宿祢赤人作歌二首[山部宿祢赤人の作れる歌二首(923・926)]并短歌〔并せて短歌〕 
 06 0923 八隅知之(やすみしし)和期大王乃(わごおほきみの)高知為(たかしらす)芳野宮者(よしののみやは)立名附(たたなづく)青垣隠(あをかきごもり)河次乃(かはなみの)清河内曽(きよきかふちぞ)春部者(はるへは)花咲乎遠里(はなさきををり)秋去者(あきされば)霧立渡(きりたちわたる)其山之(そのやまの)弥益〃尓(いやますますに)此河之(このかはの)絶事無(たゆることなく)百石木能(ももしきの)大宮人者(おほみやひとは)常将通(つねにかよはむ) 

 はる-べ 【春方】:春のころ。春。 
九句目(はるへは)は、(はるのべは)

 06 0924 反歌二首 
06 0924 >三吉野乃(みよしのの)象山際乃(きさやまのまの)木末尓波(こぬれには)幾許毛散和口(ここだもさわく)鳥之聲可聞(とりのこゑかも)

 象山:歌枕(うたまくら)。今の奈良県吉野郡吉野町にある山。吉野離宮があった宮滝の対岸にそびえる。 
『際』の字には少なくとも、際(セイ)・ 際(サイ)・ 際わる(まじわる)・ 際(きわ)・ 際(あい)の5種の読み方が存在する。
 ここ-だ 【幾許】:こんなにもたくさん。こうも甚だしく。▽数・量の多いようす。

 06 0925 烏玉之(ぬばたまの)夜乃深去者(よのふけゆけば)久木生留(ひさぎおふる)清河原尓(きよきかはらに)知鳥數鳴(ちどりしばなく) 

 『生』の字には少なくとも、生(ソウ)・ 生(セイ)・ 生(ショウ)・ 生やす(はやす)・ 生える(はえる)・ 生(なま)・ 生る(なる)・ 生す(なす)・ 生(き)・ 生う(おう)・ 生(うぶ)・ 生む(うむ)・ 生まれる(うまれる)・ 生(いのち)・ 生ける(いける)・ 生きる(いきる)・ 生かす(いかす)の17種の読み方が存在する。 
三句目(ひさぎおふる)は、(ひさぎなる) 

ぬばたまの よのふけゆけば ひさぎなる きよきかはらに ちどりしばなく

2026年7月12日日曜日

【萬葉集06 0920・0921・0922】

06 0920 神龜二年乙丑夏五月幸于芳野離宮時笠朝臣金村作歌一首[神亀二年乙丑の夏五月、吉野の離宮に幸しし時に、笠朝臣金村の作れる歌一首]并短歌〔并せて短歌〕
 06 0920 足引之(あしひきの)御山毛清(みやまもさやに)落多藝都(おちたぎつ)芳野河之(よしののかはの)河瀬乃(かはのせの)浄乎見者(きよきをみれば)上邊者(かみへには)千鳥數鳴(ちどりしばなく)下邊者(しもへには)河津都麻喚(かはづつまよぶ)百礒城乃(ももしきの)大宮人毛(おほみやひとも)越乞尓(をちこちに)思自仁思有者(しじにしあれば)毎見(みるごとに)文丹乏(あやにともしみ)玉葛(たまかづら)絶事無(たゆることなく)萬代尓(よろづよに)如是霜願跡(かくしもがもと)天地之(あめつちの)神乎曽禱(かみをぞいのる)恐有等毛(かしこけれども)

 しじ-に 【繁に】:数多く。ぎっしりと。びっしりと。
 あや-に 【奇に】:なんとも不思議に。言い表しようがなく。 
ともし‐び【灯火・灯・燭】:ともした火。あかり。とうか。ともし。ともしみ。
 かく-し-もがも 【斯くしもがも】:こういうふうであってほしい。こうでありたい。
 「聖武天皇が即位(神亀元年)し、吉野行幸の折にたたえた歌である」

 06 0921 反歌二首
 06 0921 萬代(よろづよに)見友将飽八(みともあかめや)三芳野乃(みよしのの)多藝都河内之(たぎつかふちの)大宮所(おほみやところ) 

 たき 【滝】:急流。早瀬。
「納涼の風景が浮かんでくる」

 06 0922 人皆乃(ひとみなの)壽毛吾母(いのちもわれも)三吉野乃(みよしのの)多吉能床磐乃(たぎのとこはの)常有沼鴨(つねにあらぬかも)   

(とこは)を磐としているが、これは【常葉】常緑の葉だと思う。 
かも(読み)カモ:(「ぬかも」の形で)願望の意を表す。…てくれないかなあ。 
五句目(つねにあらぬかも)は、(つねありぬかも)

ひとみなの いのちもわれも みよしのの たぎのとこはの つねありぬかも

2026年7月5日日曜日

【萬葉集06 0917・0918・0919】

06 0917 神龜元年甲子冬十月五日幸于紀伊國時山部宿祢赤人作歌一首 [神亀元年甲子の冬十月五日、紀伊国に幸しし時に、山部宿祢赤人の作れる歌一首]并短歌〔并せて短歌〕
 06 0917 安見知之(やすみしし)和期大王之(わごおほきみの)常宮等(とこみやと)仕奉流(つかへまつれる)左日鹿野由(さひかのゆ)背匕尓所見(そがひにみゆる)奥嶋(おきつしま)清波瀲尓(きよきなぎさに)風吹者(かぜふけば)白浪左和伎(しらなみさわき)潮干者(しほふれば)玉藻苅管(たまもかりつつ)神代従(かむよより)然曽尊吉(しかぞたふとき)玉津嶋夜麻(たまつしまやま) 

 【故地名】雑賀野(さいがの):和歌山県和歌山市 
【故地説明】聖武天皇の離宮が造営された。
 そがひ 【背向】:背後。後ろの方角。後方。 
【故地名】玉津島山(たまつしまやま):和歌山県和歌山市、玉津島に同じ。 古来玉津島明神と称され、和歌の神として住吉明神、北野天満宮と並ぶ和歌3神の1柱として尊崇を受けることになる。

 06 0918 反歌二首
 06 0918 奥嶋(おきつしま)荒礒之玉藻(ありそのたまも)潮干滿(しほひみち)伊隠去者(いかくりゆかば)所念武香聞(おもほえむかも) 

 い-かく・る 【い隠る】:隠れる。:「い」は強めの意味の接頭語。上代語。

 06 0919 若浦尓(わかのうらに)塩滿来者(しほみちくれば)滷乎無美(かたをなみ)葦邊乎指天(あしべをさして)多頭鳴渡(たづなきわたる)

 一句目(わかのうらには、(わかうらに)
 『滷』の字には少なくとも、滷(ロ)・ 滷(テキ)・ 滷(セキ)・ 滷(ジャク)・ 滷(シャク)・ 滷(にがり)・ 滷い(しおからい)の7種の読み方が存在する。 
せ・く 【塞く・堰く】:せき止める。おさえとどめる。 
三句目(かたをなみ)は、(せきをなみ) 

 わかうらに しほみちくれば せきをなみ あしべをさして たづなきわたる 

 06 0919 右年月不記 但偁従駕玉津嶋也 因今撿注行幸年月以載之焉[右は、年月を記さず。ただ玉津島に従駕すといへり。因りて今行幸の年月を検へ注して以ちて載す]

2026年6月28日日曜日

【萬葉集06 0916】

06 0916 茜刺(あかねさす)日不並二(ひならべなくに)吾戀(あがこひは)吉野之河乃(よしののかはの)霧丹立乍(きりにたちつつ) 

 あかね-さす 【茜さす】:赤い色がさして、美しく照り輝くことから「日」「昼」「紫」「君」などにかかる。
 け‐なら・ぶ【▽日並ぶ】:日数を重ねる。いく日も費やす。
 な-く-に:…ないことなのに。…ないのに。 
「そんなに日も、経ってないのに・・・」

ここ三句目で、(あがこひは)と核心に触れようとするんよ。
ところが四句目(よしののかはの)で、はぐらかしちゃうんよ。
吉野川:歌枕(うたまくら)。今の奈良県吉野郡の山中に源を発し、吉野山のふもとを流れる川。 

 きり 【霧】:(地表近くに立ちこめて煙のように見える)霧・霞(かすみ)。上代には季節に関係なく用いたが、中古以降は、春に見られるものを「霞(かすみ)」、秋に見られるものを「霧」というようになった。
 た・つ 【立つ・起つ】:(風・波などが)起こる。立つ。立ち昇る。
 乍:[音]ジャ(呉)サ(漢)[訓] なが-ら、たちま-ち、な-す (「作」に同じ)、つつ 
つつ[接助]:…し続けている。
そしてその恋は、「霧になって立ち上っていますよ」で締めくくった。 

 06 0916 右年月不審 但以歌類載於此次焉 [右は、年月審(つまび)らかならず。ただ、歌の類を以ちてこの次に載す]或本云 養老七年五月幸于芳野離宮之時作[或る本に云はく、「養老七年(723)五月、吉野の離宮に幸しし時に作る」といへり] 
ということは、春に近いから、霞なのかなぁ?