2026年7月5日日曜日

【萬葉集06 0917・0918・0919】

06 0917 神龜元年甲子冬十月五日幸于紀伊國時山部宿祢赤人作歌一首 [神亀元年甲子の冬十月五日、紀伊国に幸しし時に、山部宿祢赤人の作れる歌一首]并短歌〔并せて短歌〕
 06 0917 安見知之(やすみしし)和期大王之(わごおほきみの)常宮等(とこみやと)仕奉流(つかへまつれる)左日鹿野由(さひかのゆ)背匕尓所見(そがひにみゆる)奥嶋(おきつしま)清波瀲尓(きよきなぎさに)風吹者(かぜふけば)白浪左和伎(しらなみさわき)潮干者(しほふれば)玉藻苅管(たまもかりつつ)神代従(かむよより)然曽尊吉(しかぞたふとき)玉津嶋夜麻(たまつしまやま) 

 【故地名】雑賀野(さいがの):和歌山県和歌山市 
【故地説明】聖武天皇の離宮が造営された。
 そがひ 【背向】:背後。後ろの方角。後方。 
【故地名】玉津島山(たまつしまやま):和歌山県和歌山市、玉津島に同じ。 古来玉津島明神と称され、和歌の神として住吉明神、北野天満宮と並ぶ和歌3神の1柱として尊崇を受けることになる。

 06 0918 反歌二首
 06 0918 奥嶋(おきつしま)荒礒之玉藻(ありそのたまも)潮干滿(しほひみち)伊隠去者(いかくりゆかば)所念武香聞(おもほえむかも) 

 い-かく・る 【い隠る】:隠れる。:「い」は強めの意味の接頭語。上代語。

 06 0919 若浦尓(わかのうらに)塩滿来者(しほみちくれば)滷乎無美(かたをなみ)葦邊乎指天(あしべをさして)多頭鳴渡(たづなきわたる)

 一句目(わかのうらには、(わかうらに)
 『滷』の字には少なくとも、滷(ロ)・ 滷(テキ)・ 滷(セキ)・ 滷(ジャク)・ 滷(シャク)・ 滷(にがり)・ 滷い(しおからい)の7種の読み方が存在する。 
せ・く 【塞く・堰く】:せき止める。おさえとどめる。 
三句目(かたをなみ)は、(せきをなみ) 

 わかうらに しほみちくれば せきをなみ あしべをさして たづなきわたる 

 06 0919 右年月不記 但偁従駕玉津嶋也 因今撿注行幸年月以載之焉[右は、年月を記さず。ただ玉津島に従駕すといへり。因りて今行幸の年月を検へ注して以ちて載す]

2026年6月28日日曜日

【萬葉集06 0916】

06 0916 茜刺(あかねさす)日不並二(ひならべなくに)吾戀(あがこひは)吉野之河乃(よしののかはの)霧丹立乍(きりにたちつつ) 

 あかね-さす 【茜さす】:赤い色がさして、美しく照り輝くことから「日」「昼」「紫」「君」などにかかる。
 け‐なら・ぶ【▽日並ぶ】:日数を重ねる。いく日も費やす。
 な-く-に:…ないことなのに。…ないのに。 
そんなに日も、経ってないのに・・・」

ここ三句目で、(あがこひは)と核心に触れようとするんよ。
ところが四句目(よしののかはの)で、はぐらかしちゃうんよ。
吉野川:歌枕(うたまくら)。今の奈良県吉野郡の山中に源を発し、吉野山のふもとを流れる川。 

 きり 【霧】:(地表近くに立ちこめて煙のように見える)霧・霞(かすみ)。上代には季節に関係なく用いたが、中古以降は、春に見られるものを「霞(かすみ)」、秋に見られるものを「霧」というようになった。
 た・つ 【立つ・起つ】:(風・波などが)起こる。立つ。立ち昇る。
 乍:[音]ジャ(呉)サ(漢)[訓] なが-ら、たちま-ち、な-す (「作」に同じ)、つつ 
つつ[接助]:…し続けている。
そしてその恋は、「霧になって立ち上っていますよ」で締めくくった。 

 06 0916 右年月不審 但以歌類載於此次焉 [右は、年月審(つまび)らかならず。ただ、歌の類を以ちてこの次に載す]或本云 養老七年五月幸于芳野離宮之時作[或る本に云はく、「養老七年(723)五月、吉野の離宮に幸しし時に作る」といへり
ということは、春に近いから、霞なのかなぁ?

2026年6月20日土曜日

【萬葉集06 913・914・915】

06 0913 車持朝臣千年作歌一首[車持朝臣千年の作れる歌一首]并短歌〔并せて短歌〕 
 06 0913 味凍(うまこりの)綾丹乏敷(あやにともしく)鳴神乃(なるかみの)音耳聞師(おとのみききし)三芳野之(みよしのの)真木立山湯(まきたつやまゆ)見降者(みおろせば)川之瀬毎(かはのせごとに)開来者(あけくれば)朝霧立(あさぎりたちし)夕去者(ゆふされば)川津鳴奈利(かはづなくなり)紐不解(ひもとかぬ)客尓之有者(かくにしあれば)吾耳為而(あのみして)清川原乎(きよきかはらを)見良久之惜蒙(みらくしをしも)     

 うまこり:「あや」にかかる枕詞。 
「ともし/乏し/羨し」:うらやましい。 
『客』の字には少なくとも、客(ケ)・ 客(キャク)・ 客(カク)・ 客(カ)・ 客(まろうど)の5種の読み方が存在する。 
「かく/斯く」:このように、こんなふうに、こう

 06 0914 反歌一首 
06 0914 瀧上乃(たぎのへの)三船之山者(みふねのやまは)雖畏(かしこけど)思忘(おもひわするる)時毛日毛無(ときもひもなし) 

 【故地名】三船の山(みふねのやま):奈良県吉野郡吉野町宮滝(吉野離宮の地)と吉野川をはさんで東南にある山(487メートル)。 

 06 0915 或本反歌曰 
06 0915 千鳥鳴(ちどりなく)三吉野川之(みよしのがはの)川音(かはおとの)止時梨二(やむときなしに)所思公(おもほゆるきみ)

 車持 千年(くらもち の ちとせ)は、元正天皇・聖武天皇の宮廷歌人として仕え、行幸に従駕した折の歌である。

2026年6月14日日曜日

【萬葉集06 0912】

06 0912 泊瀬女(はつせめの)造木綿花(つくるゆふばな)三吉野(みよしのの)瀧乃水沫(たぎのみなわに)開来受屋(ひらきにこずや)

 はつせ‐め【初瀬女・泊瀬女】: 大和国(奈良県)初瀬の女。はつせおとめ。 
【故地名】泊瀬(はつせ):奈良県桜井市初瀬を中心とした、初瀬川流域の峡谷地帯。 
 コウゾの皮の繊維を蒸して水にさらし、細かく割いて作った糸を木綿(ゆう)といい、同じ字の木綿(もめん。ワタの繊維)とは別のものである。 
つまり、(ゆふ 【木綿】)とは、こうぞの樹皮をはぎ、その繊維を蒸して水にさらし、細く裂いて糸状にしたもの。神事で、幣帛(へいはく)としてさかきの木などに掛ける。
 しらゆふ-はな 【白木綿花】:白い「木綿(ゆふ)」で作った造花。波頭の白さや流れ落ちる水の飛び散るようすをたとえて言う。 

み-よしの 【み吉野】:「吉野(よしの)(今の奈良県吉野郡吉野町を中心に、吉野山付近)」の美称。 
 たき 【滝】:急流。早瀬
 み-な-わ 【水泡】:水の泡。はかないものをたとえていう。

 『開』の字には少なくとも、開(ケン)・ 開(カイ)・ 開ける(ひらける)・ 開く(ひらく)・ 開ける(はだける)・ 開かる(はだかる)・ 開ける(あける)・ 開く(あく)の8種の読み方が存在する。
 開ける(ヒラケル):よいほうへ向かう。先の見通しが明るくなる。

はつせめの つくるゆふばな みよしのの たきのみなわに ひらきにこずや

2026年6月7日日曜日

【萬葉集06 0911】

06 0911 三芳野之(みよしのの)秋津乃川之(あきづのかはの)万世尓(よろづよに)断事無(たゆることなく)又還将見(またかへりみむ)

 あきづ【秋津】:奈良県吉野郡宮滝付近の古称。奈良時代に吉野離宮のあった所 【
故地名】秋津の川:秋津野付近の吉野川。 
要するに吉野の山も川も、宮廷人にとっては神聖な場所なのかも。

 よろづ-よ 【万代・万世】:限りなく長い年月。永久。永遠。 
た・ゆ 【絶ゆ】:絶える。途切れる。切れる。
 明らかに、万世一系の天皇家を称えようとしているのである。

 かへり-・みる 【顧みる】:心にかける。気にかける。懸念する。反省する。
 ところが、一抹の不安を抑えようとしているのであろうか? 
歌人は、 笠朝臣金村であるが、 養老七年(723)五月の元正天皇の吉野離宮行幸に付随し、この前年の養老6年(722年)正月、多治比三宅麻呂が謀反誣告を、穂積老が天皇を名指して非難をしており、ひょっとしたらこの時の心境であろうか?

みよしのの あきづのかはの よろづよに たゆることなく またかへりみむ

2026年5月31日日曜日

【萬葉集06 0910 】

06 0910 或本反歌曰
 06 0910 神柄加(かむからか)見欲賀藍(みがほしからむ)三吉野乃(みよしのの)瀧乃河内者(たぎのかふちは)雖見不飽鴨(みれどあかぬかも) 

 かむ-から 【神柄】:神の性格。神の本性。「かみから」とも。◆多く副詞的に用いられて「神の性格がすぐれているために」の意。
 み-が-ほ・し 【見が欲し】:見たい。
 吉野は吉野山あるいは吉野宮(宮滝遺跡)を指し、神性を称えている。

 たぎ・つ【×滾つ/▽激つ】: 水が激しく流れる。水が逆巻きうねる
 かふ-ち 【河内】:川の曲がって流れている所。また、川を中心にした一帯。◆「かはうち」の変化した語。 

 『飽』の字には少なくとも、飽(ホウ)・ 飽きる(あきる)・ 飽かす(あかす)の3種の読み方が存在する。
 『鴨』の字には少なくとも、鴨オウ・ 鴨かもの2種の読み方だが、この場合万葉仮名として「か」と訓。 
五句目(みれどあかぬかも)は、(みれどあかぬか) 

 かむからか みがほしからむ みよしのの たぎのかふちは みれどあかぬか

2026年5月24日日曜日

【萬葉集06 0908・0909】

06 0908  反歌二首 
06 0908 毎年(としのはに)如是裳見壮鹿(かくもみてしか)三吉野乃(みよしのの)清河内之(きよきかふちの)多藝津白浪(たぎつしらなみ) 

 『毎』の字には少なくとも、毎(マイ)・ 毎(バイ)・ 毎る(むさぼる)・ 毎(つね)・ 毎(ごと)の5種の読み方が存在する。 
『年』の字には少なくとも、年(ネン)・ 年(ニョウ)・ 年(デン)・ 年(デイ)・ 年(とせ)・ 年(とし)の6種の読み方が存在する。
 毎レ年→(としごと)
 一句目(としのはに)は、(としごとに

 かく【斯く】:このように・こんなに しか:〔自己の願望〕…たいものだ。…たいなあ。
 み-よしの 【み吉野】:「吉野(よしの)(今の奈良県吉野郡吉野町を中心に、吉野山付近)」の美称。 
「養老七年(723)五月十九日から二十三日にかけて、元正天皇が吉野離宮に行幸した際、従駕した笠金村が作った歌で、気持ちのよさが伝わってくる」 

 かふ-ち 【河内】:川の曲がって流れている所。また、川を中心にした一帯。◆「かはうち」の変化した語。
 たぎつ:水が激しく流れる、 
「吉野といえば宮瀧だが、山からの川の流れは、五月にあっては、さぞかし清々しいことだろう」

 としごとに かくもみてしか みよしのの きよきかふちの たぎつしらなみ

 06 0909 山高三(やまだかみ)白木綿花(しらゆふばなに)落多藝追(おちたぎつ)瀧之河内者(たぎのかふちは)雖見不飽香聞(みれどあかぬかも)

 しらゆう‐ばな〔しらゆふ‐〕【白木=綿花】:白木綿を花に見立てた言い方。波や水の白さのたとえとして用いられる。 

 おち-たぎ・つ 【落ち滾つ】:ほとばしり落ちる。激しく落ちる。 
 『飽』の字には少なくとも、飽(ホウ)・ 飽きる(あきる)・ 飽かす(あかす)の3種の読み方が存在する。 
『香』の字には少なくとも、香(コウ)・ 香(キョウ)・ 香しい(かんばしい)・ 香る(かおる)・ 香り(かおり)・ 香(か)の6種の読み方が存在する。 
飽きる(あきる)+香(キョウ)=(あき) 
五句目(みれどあかぬかも)は、(みれどあきずも

やまだかみ しらゆふばなに おちたぎつ たぎのかふちは みれどあきずも